
少子高齢化の波が勢いを増して押し寄せている昨今、介護スタッフの業務負担は限界に達しつつあります。そのため、さまざまなアプローチを通して介護現場の労働環境改善が進められているのです。そこで本記事では、業務改善アプローチの中から「介護現場のDX化」について詳しく解説します。本記事を参考に、ぜひ労務改善に取り組んでください。
介護現場のDX化とは?
介護現場のDX化(以下介護DX)とは、ITやAI、ロボットなどのデジタル技術を通じて介護業務の負担軽減・改善を行う取り組みのことを指します。これにより介護スタッフの負担を和らげるとともに、利用者にはより質の高いサービスの提供を目指します。なぜ介護DXが必要とされているのか
介護DXは、現在進行形で負担が強まっている介護現場において急務とされています。日本の高齢者率は、2025年時点でおよそ30%です。このままでは、2人に1人が高齢者となる時代もそう遠くないでしょう。介護サービスが必要な高齢者が増えることに反比例するように、労働人口は減っていくのです。また、限られた労働者層からも、介護業界は「身体的負担がキツイ」「休日出勤が常態化している職場が珍しくない」といった理由から敬遠されています。
こうした非常に厳しい状況に対応できる技術として注目されているのが、介護DXです。介護DXを行うことで、利用者のデータ管理の負担軽減や病院との連携強化につなげられます。
また、利用者それぞれに寄り添ったケアの実現も、介護DXに期待されている要素の1つです。こうした小さな業務負担を少しづつ減らし、利用者の満足度を高めることは、今後の介護業界の維持のためにも欠かせません。
介護DXの主な種類
続いて、介護DXの種類について詳しく紹介します。具体的には「PCによる介護ソフトの活用」「スマホ・タブレットのアプリの活用」「無線ナースコール機器の導入」「見守りセンサーの導入」「無線通信機器の導入」「移動支援ロボットの活用」などが挙げられます。これらのうち、PCやスマートフォンのソフト・アプリの活用は比較的導入が容易なことから、現在では多くの介護現場で活用されています。しかし、無線通信機器や移動支援ロボットの導入は非常に限定的で、普及が難航していることがわかります。
また、まったくと言っていいほどDX化が進んでおらず、紙書類のみで業務を続けている介護現場も少なからず存在します。このような厳しい現実も、介護DXの抱える課題です。
介護DXによる4つのメリット
ここまで、介護DXの必要性やその種類を紹介してきました。以下では、介護DXがもたらす4つのメリットについて、深掘りして解説します。介護スタッフの負担軽減
先述の通り、介護DXはスタッフの業務負担の軽減に寄与します。たとえば、記録や情報管理がデジタル化すれば手描き書類を介した事務仕事から解放されます。これにより、利用者のケアや生活の手伝いといった本来の業務に集中できます。また、ナースコールなどの設備を導入すれば、看護師を呼ぶためにスタッフが施設から病院の往復をしなくて済みます。介護スタッフの負担が減り、残業時間や休日出勤も減れば、スタッフをさらに呼び込みやすくなる好循環も期待可能です。
迅速な情報共有
介護現場のDX化を進めることで、スタッフ間の情報共有が容易になります。たとえば「利用者Aさんの食事を常食からきざみ食に変更する」「利用者Bさんの要介護度が上がったため施設の移動が必要」といった情報は、利用者の安全を守るためにも迅速な共有が必要となります。これらの情報共有は、口頭で行うだけでは情報の洩れや誤解につながりやすいです。また、介護DXによって利用者のデータが電子化すれば、容体などの情報がリアルタイムで更新されます。この点も、高齢者の安全を遵守する必要がある介護スタッフにとってはありがたい要素です。
他の業種との連携強化
介護の仕事は、現場だけで完結するものではありません。看護師やリハビリテーションスタッフとの連携も、仕事を円滑に進めるために欠かせない要素です。その点においても、介護DXは力を発揮します。具体的には、DX化により各職場のデジタルツールが統一されれば、従来よりも情報共有が簡単になります。また、介護士・看護師・リハビリテーションスタッフが共通の情報源に触れることで、業種間のすれ違いや認識の違いを減らすことにもつながるでしょう。
適切なケアの提供
介護DXを推進することは、利用者へ適切なケアを提供することにもつながります。たとえば、見守りセンサーを導入すれば、利用者の以上をすぐに検知でき、対処も早まります。また、利用者のデータがデジタル化すれば、利用者のニーズに合わせたケアをデータと照らし合わせて行えます。とくに体調面のデータは、介護事故を防ぐうえでも欠かせません。これらの情報を適切に管理することは、利用者・介護者ともにリスクを軽減する行動に他なりません。
介護DXの導入事例を紹介
ここからは、介護DXの実際の導入事例についてみていきましょう。いずれも、DX化を通して業務効率の改善を実現した事例となります。ナースコールシステムを一台の端末に集約した事例
ある介護現場では、看護師の呼び出しで使用する端末とその記録を行う端末が異なり、職員の負担が大きくなっていました。そこで、ナースコールシステムをスマートフォン一台に集約することで、業務効率化を図ったのです。その結果、呼び出し情報がテキストで表示されるようになり、内容の確認が容易になりました。さらに、記録作業の負担が少なくなり、コア業務に集中できるようになったという声もあります。また、ナースコールの呼び出し音が居室の外に響かなくなったため、利用者の生活満足度も向上したとのことです。
スマートフォン連動で手を止めずに介護ができるようになった事例
別の現場では、見守り支援アラートが鳴るたびに介護の手を止めて、PCのある部屋に戻って内容を確認しなければいけない状況でした。また、介護状況の記録に時間がかかっていたことも、慢性的な課題でした。そこでこの介護現場は、ナースコールや見守り支援システムなどの介護関連ツールをスマートフォン1つで確認できるようにしたのです。これにより、介護スタッフは介護の手を止めずに業務を続けられるようになりました。また、介護状況の記録時間も、端末の一本化によって大幅に短縮できたそうです。
介護DXの今後の課題について
最後に、介護DXに関する今後の課題について詳しく紹介します。また、それらの課題の解決策も同時に提示するので、DX化を進める道しるべとなれば幸いです。初期費用・維持費が高い
介護事業はビジネスモデルの都合上、利益を出しづらい構造になりやすいです。これが原因となり「DX化の初期費用や維持費の捻出が困難」という声も上がりやすいです。DX化には、どうしてもソフトの契約料金や端末代などが必要となります。これらの費用も、物価高の昨今では大きな負担となりやすいです。このような課題の解決策としては、補助金の活用が挙げられます。国や自治体が実施している補助金制度を活用すれば、導入費用を抑えつつ介護DXを実現できます。
具体的には、厚生労働省が推進している「介護テクノロジー導入支援事業」などが代表例です。補助金の額や手続きの流れ、必要な要件は補助金や自治体によって異なるため、まずは介護施設の所在地の自治体に問い合わせてみましょう。
スタッフによってIT関連知識の習熟度が異なる
介護の職場には、大学生のアルバイトから子育てを終えた主婦層まで、幅広い層のスタッフが在籍していることが多いです。そのため、DX化を終えた後にすぐにソフトや端末を使いこなせる人もいれば、データの入力もままならない人もいます。こうしたITリテラシーの隔たりを解消するには、研修を徹底して行うことが大切です。また、マニュアルも専門用語を用いずにわかりやすく記載しましょう。なお、中〜高年層のスタッフが多い場合は、DX化を一挙に進めるのではなく、段階的・部分的に徐々に進めていくのも効果的です。
さらに、UIが見やすく直感的に操作しやすいソフトを選択することも、DX化を進めるうえではとても大切です。総じて「使うスタッフの目線になって考える」ことが、DX化を成功させるために大切な姿勢といえます。